561行
クレオン「数えればずいぶん昔のこと。かなりになります。」
すでにプロロゴスで、ライオス殺害犯の捜査は、それに続いて起きたスフィンクスの厄災への対処のために満足に行えなかったとクレオンは語っている。だから、ここで、オイディプスが「どれ位になるのか」を聞くことに意味があるとすれば、オイディプスはスフィンクスがどの程度の期間テバイに厄災をもたらしていたのかを知らないのだろう。その終点の時期はオイディプスは知っているのだから。クレオンの答えはプロロゴスよりも明確さを欠いている。
以下の応答は基本的にはプロロゴスで得られた情報の確認のための反復だが、オイディプスは、それに、テイレシアスが当時予言者であるなら何もしなかったのはなぜなのか?を付け加えている。次の推論プロセスがここでは前提とされている。(1)テイレシアスの予言の術はいかさまである、あるいは少なくとも、テイレシアスにはライオス殺害犯を知る「知恵」はない。(2)テイレシアスが当時役立たずだったことをクレオンは知っているのだから、(1)をクレオンは知っている。(3)もし、(2)が正しいなら、オイディプスにテイレシアスの言葉を得るようにとのアドヴァイスを行ったのには別の意図がある。(4)実際のテイレシアスの言葉からして、その意図は王位簒奪でしかありえない。
568のオイディプスの「ではどうしてその時、あの「賢者」は何も言わなかったのだ?」は(1)の確認である。それに対するクレオンの返答は上手い肩すかしになっている。
「分かりません。知らないことについては黙っていたいです。」569
「黙っていたいですσιγᾶν φιλῶ」φιλέωは「愛する、好む」から、「〜するのが好みだ、〜するのが流儀だ」の含意が生まれる。「黙っていたいです」はそのニュアンスを外していないだろう。この言葉はクレオンという人の性格を暗示するものになっているが、ここではまだ曖昧だ。しっぽを掴ませないための狡猾さとみることも出来るし、無責任なことを言わない高潔さとみることも出来る。
570−73行
オイディプス「だが次の点だけは分かっているはずだし、まともならば喋ることになるだろう。」
クレオン「それは何です? 知っていればお答えします。」
オイディプス「こうだ。お前とぐるでなければ、ライオス殿を殺したのが私だとあいつが言う筈がないということだ。」
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