2013年8月6日火曜日

Roger Waters The Wall Concert

ローマで観てきた。元フロイドのリーダー、ロジャー・ウォーターズの「壁」コンサートだ。観たときの感想はツイッターで書いたので(投稿は遅れたけれど)http://twilog.org/MasahiroKitano の八月四日あたりを見て下さい。
どこかに書いたけれど、フロイドの、「ウォール」は思い入れのある作品だ。というか、アルバムの時は、そんなにでもなかった。ぼくにはフロイドはウォーターズ・バンドで、「原子心母」「狂気」あたりが好きだった。バレット・バンドだった「夜明けの口笛吹き」が分かりにくかったのに対し、メロディや盛り上げの分かりやすさも好ましかった。シンフォニックで長い曲が一つ含まれているのも好きなところだ。ギルモア・バンドになってからのコンサートに一度行ったが、前半の新作アルバムはつまらなかった。豚は飛んだけれど、スペクタクルにそんなに金をかけてないのもがっかり。
でも、「ウォール」は一曲が短く、ストーリーがはっきりしすぎで、コンサート形式でやるロックオペラみたいだった。何となく物足りない。
印象が変わったのは、ボブ・ゲルドフの映画版を見てからだ。東京まで行って一日に三回見た。劇中のピンク・フロイド青年が、奥さんに浮気されて自分もファンの女の子をアパートに連れ込んで急に狂ったように暴れ出し部屋のものをめちゃくちゃに壊した後、それを床の上にアートのように並べ(廃品アート)、独特の秩序への志向を示し、そのご、カミソリで髪の毛と眉、さらには乳首までそり落として、スキンヘッドの極右ロッカーに生まれ変わったところは、その内部の空虚さに怖気がした。(奥さんとは長髪で反原発運動にも参加していたのに)。
彼はその後むりやり連れ出されたコンサートで次のように歌う。
なぁ、みんな、悪いニュースがあるんだ。ピンクは調子が悪くてホテルから出てこない。で俺らが代理で送り込まれた。それでこれからお前らファンの品定めからやる。今夜この劇場に、ホモはいるか?壁にたたせろ。スポットライトを浴びてるやつ、あいつもまともには見えない。壁にたたせろ。ありゃユダヤにみえるぜ、あいつぁクロじゃねぇか。こんな屑どもを入れたのは誰だ。クサ吸ってる奴がいる。注射針の跡が見える(spotってそういう意味じゃないのかしら)奴もいる。出来るなら、お前らみんな撃ち殺してやる!
映画ではそこから「ラン・ライク・ヘル」に変わって背後では彼らの自警団が異人種カップルをレイプしたり 蛮行の限りを尽くす。そして屑のスキンヘッズになったピンクはその先頭に立って拡声器でがなりまくる。この辺ぞくぞくした。1990年のベルリンのウォールコンサートでは、舞台上に親衛隊の制服のような衣装のグループが登場し、ナチの旗を想像させる彼らの金槌二個を組み合わせたマークの旗が翻る。Youtubeでベルリンコンサートを誰かが分割アップロードしていた時も、この場面だけはすぐに削除された。

今回の公演で、大きな違いは、実際にピンクの新しいファシストグループは現れず、すべてウォーターズの内面の妄想のように描かれているところだ。旗も、壁に映像で描写されるだけだ。ウォーターズはだから最後に実際に(おもちゃの)機関銃を乱射する。映像に凝った分だけ、舞台上の劇的アクションは減らした感じ。巨大な人形(母、妻、教師)も、全部出てきたっけ?教師だけは覚えている。Another Brick in the Wall part 2で子供たちのコーラスグループが出てきて教師人形に抗議する09年版の趣向はそのまま。ツアー先の地元の子供たちを使っている。人形はベルリンの時ほどは動かない。壁自体は、主人公の内面の孤独の象徴の面よりも、巨大なスクリーンの面が強くなった。演奏も写すし、メッセージも写す。メッセージは結構はっきりしていて、冒頭にウォーターズが「すべての国家によるテロに対抗しよう」みたいなことを言うのに観客は大受けしていた。Rogerwaters.comの最新のメッセージもトルコ人民への連帯声明だし。
最初に飛行機が舞台奥に突っ込み、最後に黒い猪が空を飛ぶのはフロイドらしい。

さっきのギャグみたいな極右シーンにはネタ元がある。フロイドのアルバムの三年前、1976年にエリック・クラプトンは次の発言をバーミンガムのコンサートでしている。(翻訳はEAZEART (http://www.eazeart.com/rock-against-racism/2973/) のものを引用)
今日の客のなかに外人はいるか?Wogs(有色人種を指す差別用語)だ。いたら手を挙げろ。この間アラブ人が俺の嫁さんのケツを触りやがったんだ。この国にいる外人、Wogsはみんなそんな胸クソが悪くなるような奴らばっかりだ。そんな奴らは出てけばいい。ただこの会場を出てくんじゃない、俺達の国から出て行け。ここにも、この国にも、お前らみたいなのはいらねえんだ。みんな、よく聞け。俺達はみんなイノック・パウエルに投票するべきだ。彼は正しい。あんな奴ら、みんなまとめて国に送り返しちまったほうがいい。イギリスが黒人の植民地になるのはまっぴらだ。外人を追い出せ!Wogsを追い出せ!Coons(黒人を指す差別用語)を追い出せ!イギリスは白くあるべきだ!俺は昔はヤクにはまってたけど、今は人種差別にはまってるんだ。クソWogsめ!ロンドンなんかサウジの奴らに占領されちまってる。黒いWogsもCoonsもアラブ人もジャマイカ人もここにはいらねえんだ。ここはイギリスだ!ここは白人の国だ!WogsもCoonsもここにはいらねえ!イギリスは白人のための国だ!汚ねえWogsが隣に住んでるなんてまっぴらごめんだ!イノックを首相にして、もう一度イギリスを白く染めようぜ!
このショッキングな言葉が直ちにロッカーに反レイシズム運動を組織させたことは、引用元のEAZEARTページに詳しい。

ウォーターズの「ウォール」コンサートは、2009年のユタのが、テレビ画像かな、比較的できの良い状態でYoutubeにアップされていて、なんか変な裏声のコーラスグループに頼りすぎな気がした。今回は基本同じだけれど彼がもう少し歌っているように思った。

このアルバムでなんか誤解していて、今回修正できたのは、Bring the Boys Back Homeという歌のBoysは「子供たち」ではなく「軍人たち」を意味するんだってこと。昔のアルバムの歌詞対訳に引きずられていた。父親が戦死したことが、ピンクの個人的な破滅の根底にあるって話。

観客は老若男女そろっていて、半分くらいが写真撮っているし、有名な歌では一緒に歌っているし、まあ楽しそうだった。
冒頭 In the Flesh? 
壁完成してIn the Flesh
壁無事崩れました




0 件のコメント: