展示された作品にはそんなに「やばい」ものはない。どれもお洒落でおとなしいもの。トレーシー・エミンはコーナーの入り口ごとに幾つも展示されているけれど、よくこんな当たり障りのないものを集めたなぁと思ってしまう。(自慢すると、2011年のヘイワードギャラリーでの彼女の回顧展に行きました。)
驚くべきは、同性愛をテーマにした作品がほぼ皆無だったこと。気づいたのは、レズビアンの作家の作品が「広がる愛」コーナーにあったのと、浮世絵に若衆ものがあったのくらい。館長で企画者の南条史生氏曰く
最後の章は「広がる愛」というテーマで展開します。男女の愛だけではなくて、同性の愛、物に対する愛、国に対する愛、コミュニティに対する愛、そういう様々な愛の解釈を紹介します。現代においては愛もこのように多様な広がりを見せている、ということを描けないかと。(http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/lovelove-4480.html)とまぁ、突っ込みどころ満点のお言葉。同性愛は広がりではないし、どれも現代関係ないよね。
2010年の東京写真美術館の「ラブズ・ボディ〜生と性をめぐる表現」がほぼ全面(男性)同性愛だったことを思い出した。それもどうかと思ったけれど、こちらでの同性愛の(ほぼ)「不在」は控えめに言ってグロテスクだ。
「愛ってなに?」「恋するふたり」に続く第三のコーナーが「失われた愛」で、ここではソフィ・カルの「どうか元気で」が見応えたっぷり。「どうか元気で」で終わる別れの手紙を受け取った彼女が、その手紙を多くの女性に見せ、彼女たちがそれに様々な形で応えるのをヴィデオにしたり、写真作品にしたりしたインスタレーション。射撃の選手が手紙を的に撃ち抜くのが面白い。ソフィ・カル知らなかった。原美術館でいまやっているのか。元恋人の会田誠に殴る蹴るの暴行を加えるのを映像化したTANYの「昔の男にささげる」とともに印象的。ただ、TANYのヴィデオは、鉄パイプがあまり当たっていなかったのが残念。
展示の中で最大の衝撃はダリの巨大な聖母子像だった、というか、それがローリー・シモンズのほぼ同サイズの「ラブドール」着せ替え写真と同じ壁面で並んでいることだった。ここの写真が撮りたかったなぁ。こう言う無神経さは大好きだ。
日本以外の非欧米作品に切実で力強いものが多く、それは大きな収穫。シルヴァ・グプタのネオン作品は感動的、ゴウハル・ダシュティは戦争と日常のシュールな併存が面白い。ロバート・インディアナをぶちこわしたギムソン・ホックの「LOVE」もメッセージがダイレクトに伝わる。シリン・ネシャットの息の詰まりそうなヴィデオ「熱情」も素晴らしい。
なんかがっかりなのが初音ミクコーナーで、なぜここでミクの単なる紹介ビデオが流れるのか分からない。誰かがこの展覧会のためにミクで何かするのが流れるとばかり思っていたのに…紹介ビデオも、数年前のまだアナーキーだった頃のニコ動をまるで現状のように「良いなぁ」って言っているものだったし(全部見てないのだけれど)。とってつけた感が半端ない。
0 件のコメント:
コメントを投稿